Digital Manufacturing and Design Research Center for Emergent Circularity
デジタルものづくり(クラフト、ファブリケーション、マニュファクチャリング)は、
必要なときに/ 必要な量の / 必要なものを / 必要な場所で
誰もがデジタルデータから「直接製造」することを可能にしました。
中でも3Dプリンタは、われわれが文部科学省センター・オブ・イノベーション(COI)プロジェクト(※1)
を通じて研究を実施した2010年代の間に、試作技術から実製品を直接中量製造できる技術へと社会的に進化しました。
静音であること、安全であること、省電力であること、余剰材料(ゴミ)がごく少量であること、
リサイクル可能であること等の特徴から、今後は地球環境に負荷をかけない、
脱炭素と資源循環に根ざした新しいものづくりを先導するエンジン役を担うことが期待されます。
大量生産パラダイムから脱皮しながら、ものづくりをデジタルに転換することは、喫緊の課題です。
私たちは「地球」も「産業」も持続していくための、新しい視野を持ったデザインを「環デザイン」と名づけ、
実践的にその可能性を研究しています。
※1文部科学省COI「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」(2013-2021)
プロダクトに本来期待すべき複数の要求性能を整理し、光・音・電磁・機械・音響などの分野で世界的に研究が進められている「メタマテリアル」を複合的に組み合わせ、革新的な3D機能構造や機能表面を提案します。これを組み込むことによって、プロダクト全体の材料点数と材料種類を削減し、製品のリサイクル性を向上させる価値も実現します。
あるマテリアルを、どのような3Dプリントプロダクトに利活用すれば、将来に渡って持続的に価値が向上するか、ジャンル(領域)を横断してその可能性を網羅的に探索し、「ありうべき可能性」を複数のシナリオとして可視化します。
人間的な視線と地球的な視線を行き来しながら、「資源循環」「脱炭素」「省エネ・創エネ」「有事と平事の連続」「生物多様性向上」「海面上昇適応」「高齢化社会」の7つを主要キーワードに、未来の製品を意味づけ/価値づけます。また製品の感性価値評価、ライフサイクル(LCA)評価、および実際のフィールドテスト・ユーザテストを通じたセンシングデータの取得を複合させ、地球の持続と人間の行動変容、両方に対して生み出す新しい「もの」の価値を、科学的に定量化、可視化します。
我々のラボが構築する設計技術
温度や湿度もしくは空気や材の伸縮膨張といった環境要素の変化を用いて、モーターによらない有機的な変形や状態変化を生み出すため、複数の異なる材料を相互に編み合わせる/噛み合わせる設計技法を開発しています。そのための高速シミュレーションソフトVoxFABを独自開発しており、さらに任意の3D形状のなかにコンポジット構造を挿入するためのメタセコイアボクセルプラグイン(株テトラフェイス社開発)を運用しています。
特殊な性能を持った構造体や表面パターンを計測し、AshbyMap等の上にプロットした状態で使いやすく整理しています。あるプロジェクトで発見されたメタマテリアルを、異なる材料・異なるスケールに展開することで、業種を横断して連続的にイノベーションを達成することを目標としています。
リモート(オンライン)環境で、ブラウザ上で誰もがデザインのアイディアを書き込むことのできる、街並み3DエディタMACHI-CAD (マチカド)を開発し、市民の多様なアイディアを取り込んだ、まちのものづくりを実現します。
3Dプリンタで可能となる一品一葉のカスタマイゼーションのためには、手作りの職人が持っている「すり合わせ」の暗黙知(ビスポーク知識)を引き出し、デジタルな記述(3D形状を定義する複数の変数)へと移植していく作業が必要になります。当ラボでは、カスタマイズが可能な3Dプリント義手・義肩・靴・椅子などの実プロジェクトを通じて、その高度な知の抽出と移植のノウハウを蓄積しています。ウェブ上のパラメトリックモデルを構成するためには、OpenSCAD, Nodi3D等のソフトウェアを活用しています。
3Dプリンタ製造時の制約(オーバーハングやブリッジ等)と、金型設計製造時の制約(抜け勾配等)の両方を同時に満たす3Dデータ設計を行うことによって、3Dプリント製造(少量~中量)から金型による製造(中量~大量)までを、期間や需要の量に応じてシームレスに切り替えたり同時に進めることを保証・実現する3Dデータ設計技術を保有しています。
大型3Dプリンティングにおいては、製造時間の短縮とプリント品質の担保のため、3Dプリントの射出経路を、途切れることなく最短距離の一筆書きに帰着することが鍵となります。当ラボは、どのような複雑な形状でも3Dプリンタ向けのハミルトン経路へ変換するアルゴリズムを保有し、特許技術(特願2015-064346)を取得しています。また、経路データを直接編集するためのFabrixというソフトを独自開発しています。これらを前提とすることによって、3Dプリントのための自由な設計を担保することができ、複雑な機能(通気性や配管など)が埋め込まれた革新的な壁面等をいくつも設計していくことができます。
「大学が研究開発している技術と、企業が保有する技術とを掛け合わせ、新たな価値を生む取り組み」が「共同研究」です。具体的には、特殊マテリアル(バイオプラスチック、リサイクルプラスチック、その他特殊な機能を持つプラスチック)を保有する材料企業と共同しての、メタマテリアル開発や製品プロトタイプの探索、あるいは特定製品の設計に関する長い知見を有するメーカー企業と共同しての3Dプリント化、プロダクト化などの実績を有しています。これ以外にも「環デザイン」のコンセプトから導かれる、新たなスタイルの共同研究も検討が可能です。
「これまで大学が研究開発してきた技術をパッケージ化し、人(大学側の研究者)から人(企業側の担当者)へノウハウを直接伝達する」のが「技術指導」です。ソフトウェア面で言えば、メタ(アーキテクティッド)マテリアルデータベースの活用や評価、ハードウェア面で言えば、大型3Dプリンティングのノウハウ伝達などの実績を有しています。これ以外にも、「環デザイン」のコンセプトから導かれる、新たなスタイルの技術指導も検討が可能です。
大学が保有している特許や意匠など知財等の権利を、使用許諾というかたちで企業が利用できる状況に移行する契約が可能です。また、最終的にライセンス/ロイヤリティ契約を前提とした共同研究も可能であり、その場合の共同出願契約などの仕組みも準備されています。
循環型経済への転換が世界レベルでの急務となっているなか、製品やサービス、事業、仕組みを統合的に刷新する「サーキュラーデザイン」は必須のリテラシーとなってきています。
その世界の方向性に心から共感しつつも、同時に私は「サーキュラーデザイン」ではなく、あえて「環デザイン」というキーワードを軸に据え、センター名とすることを決めました。
会意兼形声文字である「環」は、「死者の霊が「めぐる」「めぐらす」ことを願う儀礼」を象って生まれた漢字です。
物質を循環させることを推進しつつも、それだけではなく、材料に新しい価値を吹き込むこと、人の心を動かすこと、自然界の見えない流れと対話することなどの、深い精神的本質が文字の中に宿されており、その態度が、今後の私たちの指針となると確信したからです。
最終的には日本から世界に対して、実例とともにこの新たなデザインコンセプトを発信することが、KGRI (慶應グローバルリサーチインスティチュート)としてのゴールです。その過程でさまざまな皆様と共同ができることを、研究員一同楽しみにしております。
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慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター鎌倉サテライト
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